兵庫県加東市で地域を元気にする活動をしながら、着物着付け師として活躍している新海 恵里香さん。店舗を持たず、お客様が希望された場所へ出向き着付けをする“出張着付け”スタイルで活動しています。
なぜ地元にこだわるのか、どうして出張スタイルにこだわるのかを伺っていくなかで、彼女の地元への愛と、人とのつながりを大切にする想いを感じることができました。
中学生から美容業界への道を意識
幼いころから美容への関心が強かったという新海さん。メイクに興味を持ちはじめた中学生の頃から、将来は美容業界で働きたいと思っていたそうです。
新海さん:中学生時代からメイクの勉強を自己流ではじめて、高校生の頃には美容師を志すようになりました。
高校卒業後は、大阪にある美容の専門学校へ進学し、美容師の道へと歩みはじめたのですが、技術を学んでいくなかで、「わたしが本当にやりたい仕事は美容師ではない」と思いはじめたのです。
お客様の髪を整える美容師も魅力のある素敵な仕事です。しかし、一度髪をカットすれば、おおよそ数カ月はその髪型で過ごせます。カットやパーマ、カラーをした最初の数週間は新鮮な心持ちになるかもしれませんが、次に美容室へと足を運ぶころには、その髪型が日常になっているわけです。それよりもわたしは、1日だけでもいつもとはまったく違う人になれるような、お客様が普段はできない格好で、新しい自分を発見できて一緒にその喜びと感動を共有できる、劇的な変身を遂げる仕事がしたいと思いました。例えば結婚式や成人式など、その人の一生の思い出に残るような仕事に興味が湧いたのです。
専門学校在学中に新たな目標を得た新海さんは、美容の専門学校を卒業後、神戸市にあるブライダルサロンに就職します。ブライダルサロンでは、結婚式や前撮りのヘアメイクを担当していたそうです。
日本人だから「晴れの日」に携わりたい
このブライダルサロンで、まさにお客様を1日だけ大変身させる仕事に就けた新海さんですが、さらなるスキルアップを目指し、地元である加東市へ帰り呉服屋に転職。ここでは、約10年間に渡って和装を取り扱ってきたのだそう。
新海さん:着物は、日本人の体型に似合うように作られています。帯の位置ひとつでも雰囲気が変わるので、着付けのときにはその人の体型を見極め、魅力を最大限引き出せるように気を使いますね。着付けには、美しく見せるために複雑なルールが存在します。着物の種類やシチュエーションに合わせて、小物や帯の種類をアドバイスさせてもらいながら、お客様と一緒に「美」と「品格」を作っていく感じです。
日本には「ハレの日」という言葉があるように、節目には普段と違う装いで祝う文化があります。日本文化の節目にある、かけがえのない「特別な一日」を演出できる着付けの仕事は、日本の文化に寄り添いながら魔法をかけることができる粋な仕事だと思っています。
愛する地元の人々へ幸せを届けたい
着付けや呉服のイロハを約10年で徹底的に習得した新海さん。その後、独立の道を選び、2014年に出張着付けを行う会社「sHin」を開業。
人口約4万人の加東市で、店舗を構えず自ら出向くスタイル。しかも加東市近隣の場合は出張費は取らないという。事業を行うのであれば、人口が少ない地域より、都市部のほうが有利なはずです。
新海さん:私が地元にこだわったのは、生まれ育ったこの地が大好きだからというシンプルな理由です。私の愛する地域の人たちへ、ほんの少しでも喜びを届けたくて地元での独立を決めました。
出張スタイルで着付けを行っているのは、わたしが自宅まで行くことで、小さな子どもがいるご家庭でも安心して依頼してもらえること、なかなかお店まで行けない高齢者でも着物を着てもらえるようにとの思いからはじめました。自宅のほうが、着付け中もリラックスしてもらえることが多いですしね。出張費を無料にしたのは、気軽に着物を着てもらいたいからです。
出張スタイルはどうしても移動時間がかかってしまうため、1日に受けられる仕事の数が限られてしまうのですが、「まさか私が着物を着られる日が来るなんて思わなかった!」というお客様の声を聞くと、このスタイルでやっていて良かったと思います。
まだまだ夢はたくさん
出張着付けへの熱い想いを楽しそうな表情で話す新海さん。これで夢はかなったのかと思いきや、まだまだやりたいことが数多くあるそうです。
次の展望も地元にこだわったもの。新海さんの地元への愛はとどまるところを知りません。
新海さん:以前、ブライダルサロンでの経験を元に、友人へのサプライズ結婚式を計画して実行したことがあるのですが、そのときにすごく感動してもらえたのが印象的で。
経済的な理由や環境的な要素など、さまざまな理由で結婚式を挙げられない人も少なくありません。
そういった人のために、お金をかけず、かつ2人の思い出のある場所で結婚式が行えるようお手伝いができたら、という夢を持つようになりました。
結婚式を挙げたくても挙げられなかった地元の人に、一生に残る思い出と喜びを届けたいのです。
喜びを重ねていけたら、人生はもっと豊かに楽しくなるような気がします。私は地元の人に喜びを届ける仕事を、この先もずっと続けていきたいのです。
目をキラキラと輝かせながら、熱く、そして力強く将来の夢を語る新海さん。現在では、日常的に着物を着る人がほとんどいなくなってしまった日本。しかし、特別な日だけはなく着物を着たいと願う人は多いはずです。特別な日でなくても、着物を着ることで「特別な日」を作ることもできるのではないでしょうか。
いつもとは違う自分に変身させてくれる、着付け師という仕事を選び、地域に貢献する活動も幅広く行う新海さん。地域への愛を持ち、精力的に活動を行う彼女から学ぶことは数多くあります。今後、彼女がどうやって夢をかなえていくのか、その動向に目が離せません
投稿者プロフィール
- 独創的な世界観から紡ぎだされるアイディアは、シュールながらもどこかほんわか。これから取材ライターになるべく兵庫で修行中。Follocalの特集担当として、個性的なヒト、モノ、地域を探しています。
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